JY-STORAGE

八月のこと

八月のこと

私たちは同じ夢を見た

一生分の夢

私たちの夢


ふたりは同じ電車に揺られていた

あなたは若くて

私は年寄り

最初にあなたが気づいて

声をかけてくれた

私はわかってた

とわの始まりから

いのちが瞬いたので

バラに血が通ったので

あなたはずっと驚いてて

泣きそうになってて

ただ私の手を取って

「綺麗」って言った


八月のこと

あなたは頑固で

髪が長くて

まだ目をあけていた

私はとっさに

すべてを教えてしまいたい衝動にかられた

でも自分を抑えた

それは以前には自分が若者で

誰も下手なことを言っては来なかったから

そしてそのことに感謝しているから

まだ若かったあなた

子供の時のあなた

結局はなるようになるものが

あなたをなるように仕立て上げてくれる

それは純粋で単純な物理法則のように

あなたのあずかり知らないところで

あなたを正しく導いてくれる

言葉のない終わりへと向かって

前回と同じように

普遍の弧を描いて

音もなく

この世のどこかで

理不尽もまた

あなたの見た夢を見る

あたかもそれが

私たちにとっての唯一の慰めであるかのように


八月のこと

でもいつの八月だったのか

それがいつの八月だったのかが

どうしても思い出せなくて

なぜかそれだけが

あの八月

同じ電車に揺られていて

二人が出会うべくして出会った

私がいて

あなたがいた

あの八月が

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