大人になった僕らは互いに相手を利用する
成長の過程でそれぞれが失った家族の情景を
再び手に入れようと躍起になって
君は僕の前でふたりの子供の手を取って
君だけの肺臓に根差した歌を抑えきれずに口ずさむ
(ああ愛しい俺の子供たち
やがて罪のないおまえの瞳と声の奥底で萌えいづる
俺や友達なんかに対するありふれた負い目と哀れみの土壌は
おまえの許可なく不器用な俺たちの手によって整えられる)
そして明る過ぎる斜陽の波間に立ち上る
君らの白い吐息を一瞬の記憶の枠に嵌めてみながら
まだ完全な絶望の予感すら知らずにいる君の肺が
早くも真っ黒になっちまっていないことを僕は願う
(でも俺の偽りのない内側はどうしてこうも
真っ暗なのだろう
そこで俺は光の欠片をどこから集めてきて
明日も夢を見るのだろう)
僕は君を愛している
君が僕の口から聞いた以上に
だが日に日に差し迫る生活の終焉を背に
僕の中ではどんどんと罪の意識が肥大化してゆく
そしてそれ自体おぼろげな幸福の追憶または予感は
さながらアザゼルに捧げられた山羊のように
ひとり記憶の荒れ地へとなす術もなく追いやられてゆく
(願わくは自分の夢に生きていると見受けられる最愛の君が
いつだって俺とは違う何か楽しいことを考えていますように)
そもそも僕らは幸せだったのだろうか
ふたりの歩みのさいしょの一歩を
踏み違えた可能性はないのだろうか
この不確かで不揃いな足跡は
僕らをどの角度でおわりの崖へと追い込むのだろう
(お願いだたのむ俺を諌めてくれ
その真っ白な胸でなんでもないと歌ってくれ)
僕はもう振り返りたくない
日は徐々に暮れている
それがすべての絶望と望みの帳尻を
一切の異議を払い除けて合わせてくれることだろう
(最期にはかの聖なる山羊をその御許へと
慈愛に満ちた神が引き上げてくださることだろう)
だんだんと穏やかになりゆく静けさに風が立って
時が流れて
僕らの思惑は少しずつ
それが産まれる前の夜になる
(お願いだたのむ俺を諌めてくれ
おまえたちの真っ白な吐息で俺の故郷を攫ってくれ)